深刻な事故の場合を考えます。

 交通事故により負傷した場合には加害者は民事上損害賠償責任を負うか否かが問題になります。事故と言う突発的事項で法的責任の帰趨が問題になる場面なので、民法709条の不法行為責任の成否が問題になります。自動車での傷害事故では自賠責法3条の責任も問題になりますが、ここでは省きます。
不法行為とは故意または過失により、他人の権利等を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う、と言うものです。仮に運転手の不注意で車に衝突して負傷後、被害者が精神的失調をきたし自殺した、と言う場合を想定します。大変痛ましいので、このような事故がなくなることを祈ります。

 被害者の損害賠償を考えると、自殺で死亡しているので、相続人が賠償責任を追及することを前提とします。

 まず不法行為は成立するか?不注意が原因で衝突回避行動が遅れ受傷したいるので、運転手として相当の事故回避義務を怠ったと解され過失と損害は認められます。受傷の程度に関わらず被害者は身体的苦痛も味わうのが通常なので受傷については精神的損害に対する慰謝料も認められましょう。

 しかし医療機関により必要な治療を受けており、事故後相応の期間経過後の自殺による死亡までも交通事故との因果関係があると言えるでしょうか。ここに因果関係とは、通常生じる損害は無条件的に、特別損害については特別事情の予見可能性を立証できた場合には賠償義務が及ぶとするものです。この点については加害者は受傷の結果精神的ストレスを抱え込むことも一定程度予見可能と考えれば、自殺も予見可能な特別事情に含むと解されるので自殺についての慰謝料も認められる余地があります。ただし自殺と言うのは自殺者の積極的行為が原因であり、その背景には特異な性格が存在していることから、全額を加害者に負わせるのは公平を欠くと言えます。そのため自殺についてまで慰謝料が認められても、具体的賠償額は相当程度減額されると考えられます。

※専門的な内容については専門家のアドバイスを確認するようにしてください。